腕神経叢損傷
腕神経叢とは、頚髄から出てくる第5・6・7・8頚髄神経根(C5~C8)と第1胸髄神経根(T1)から形成される神経の束の事です。
これらに束が、鎖骨と肋骨の間を通り脇の下まで続き、最終的に上肢の正中神経、尺骨神経、橈骨神経、筋皮神経になります。
各神経の支配する運動領域を分類すると以下のようになります。
第5頚髄神経・・・肩の運動
第6頚髄神経・・・肘屈曲
第7頚髄神経・・・肘伸展と手首の伸展
第8頚髄神経・・・手指の屈曲
第1胸髄神経・・・手指の伸展
神経のどの部位がどの程度損傷したかにより、肩が全く上がらないものから肘の屈曲が出来ないもの、上肢全体が動かないもの、手指さえも全く動かないものまで様々です。
また、症状が徐々に良くなるものから全く回復しないものまでいろいろです。
程度・範囲による分類では一般的に全型、上位型、下位型に分かれます。
全型では、第5頚髄神経根から第1胸髄神経根まですべが損傷し、上肢全体が麻痺します。
上位型では、第5・6・7頚髄神経根が損傷し、肩から肘にかけてが麻痺します。
下位型では、第7・8頚髄神経根、第1胸髄神経根が損傷し、肘から手指にかけてが麻痺します。
損傷の部位による分類では、脊髄から神経が引き抜けた損傷が最も重篤で、引き抜けた神経を修復することはできません。
引き抜けまでは起こさないまでも途中で断裂することもあります。
この場合は、神経移植などで断裂部を繋ぐ事が出来ます。
神経の引き抜きも断裂もないが神経の内部で連続性が立たれているものを軸索損傷と言います。
この場合は、3か月ぐらいで自然回復します。
これらの損傷がないにもかかわらず神経のショックで麻痺してしまう物を神経虚脱と言います。
この場合は、3週間ぐらいで自然回復します。
交通事故では、オートバイや自転車による事故で肩から転落したりして、腕を強く引っ張られるような力が加わる事で損傷します。
側頸部から鎖骨上窩の腫脹や疼痛があり、上肢の運動麻痺や感覚障害が生じます。
診断は、脊髄造影(ミエログラフィー)、CTミエロ、MRI、電気生理学的検査などで行います。
自然回復が期待できない場合は、神経移植術などにより損傷部位の再建を行います。
それも不可能な引き抜き損傷の場合は、肋間神経移行術や副神経移行術が行われますが、完全回復は期待できません。
後遺障害としては、1上肢の用を廃したものとして5級6号、
1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したものとして6級6号が、
1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したものとして8級6号が、
1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すものとして10級10号が、
1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すものとして12級6号が認定される可能性があります。